IVORY

Fictions

タスク

 ディスプレイに亀裂が走ったように思えた。しかしそれは私の勘違いで、視界がきらきらと光って、あまりの明るさにきちんと物事が見えなくなってしまったのだった。そうであるだけで、特に実害もない。ディスプレイに恐る恐る触れてみると、かすかに暖かさを感じた。パソコンの稼働音すら聞こえない、人々のかすかなキーボードの打鍵音だけが部屋に響く。

 朝から続いた照会の電話が鳴り止んで、ようやく訪れた静寂だった。隣の同僚は先ほどまでイライラした様子で、何度もお菓子を食べている。私はというと、電話の音が鳴らなくなったタイミングを利用して、お昼に入って帰ってきたばかりだった。どうしてその瞬間に、視界が明るくなってしまったのかは分からないけれども、もしかするとストレスのためなのかもしれない。

 なんかあった?

 私がディスプレイの前でぼけっとしていたので、同僚が声をかけてきた。

 ううん、なんでもない。

 私はログアウトしていたパソコンのカードリーダーに社員証をタッチして、ログインし直す。一日に何度か訪れる認証のタイミング。切断のたびに何かを置き忘れたような気がしてならないけれども、そのたびに新しいタスクが訪れる。